飯積盛衰史第一

記

中山法場之事
寛永廿年十一月二日

大光院　法泉坊花押


大光院

戒告
此の書は修験宗の秘密なりせば書㝍及び他見に及ぼす勿れ。依て門外不出にして、後世大事に保藏すべし。

拙僧花押

大光院諸尊佛

金剛界堂安置像控

一、三世界修成摩訶如来
大化元年八月作、役小角霊験明、仆利佛師作、像尺金銅三尺
一、法起菩薩
和銅二年作、役小角霊現明、唐僧小摩作、像尺楠三尺
一、金剛藏王權現
大宝元年作、役小角霊験明、大祥阿闍梨作、像尺楠三尺
一、大日如来（金剛界）
推古帝六年作、仆利玄理作、像尺楠三尺
一、阿閦如来
推古帝二年作、鳥佛師作、像尺楠三尺
一、藥師如来
欽明帝十三年作、稲目入道作、像尺楠三尺
一、阿弥陀如来
推古帝二年作、仆利玄理作、像尺楠三尺
一、釋迦牟尼佛
推古帝元年作、鳥佛師作、像尺楠三尺

右大光院之秘藏佛也。

天文二年一月元日
松野法印忍明房

胎藏界堂安置佛

一、四天王四躯
作年不明佛師不明、金銅造五尺
一、聖觀世音菩薩以下三十二躯
金剛銅造二尺、作年佛師不明
一、不動明王以下大明王像五躯
金剛銅造三尺、作年佛工不明
一、大日如来（胎藏界）
　　藥師如来
　　阿弥陀如来
　　釋迦如来
　　阿閦如来
上記各像、作年佛工不明。以上五躯金銅像、三尺。
一、弥勒菩薩
天平二年作、佛工玄理作、金剛銅三尺

右大光院秘藏唐天竺渡來像也。

天文二年一月元日
松野法印忍明房

秘密灌頂堂安置佛

一、上宮太子御作
釋迦一光三尊佛、楠二尺
一、推古女帝御作
弥陀來迎図
一、役小角仙人御作
金剛藏王權現、楠二尺
一、金光上人御作
阿弥陀佛、檜三尺
一、天眞名井宮義仁王御作
摩利支天、楠二尺
一、源頼家御作
八幡大菩薩、楠三尺

天文二年一月元日

松野法印忍明房

法藏殿秘藏御物

一、御神器三種
天眞名井宮義仁親王御納
一、御太刀二十三振
多田満仲御秘藏、膝圓三尺三寸、髪斬三尺一寸
卜部氏御秘藏、三條宗親、二尺六寸
上田兵左衛門尉御秘藏、地藏斬、二尺四寸五分
藤木左衛門尉御秘藏、來國行、二尺二寸
藤原大納言萬里小路藤房御太刀、菊華紋一文字、二尺二寸
朝日左衛門尉御太刀、村正一尺五寸、栗田口二尺六寸三分
上宮太子御剣、黄金造、二尺二寸直刀
神樂剣、無銘十振、二尺七寸各々
藤原景房御太刀、波平行安、二尺五寸二分
和田數馬介宗春御太刀、栗田口、二尺六寸三分
北畠友麿御太刀、無銘、二尺二寸
木村孫十郎重八御太刀、無銘、二尺三寸

右之御刀皆天下無二之名刀也。

一、御鎧二十一立
一、御薙刀十三振
一、御槍二十一付
一、御馬具二十三頭組
一、飛鳥古文書管百十一
一、經管五百
一、佛具若干
一、書画八百五十

以上

天正十六年七月
右之寳物一切魔神山法洞、今日納候。

松野法印忍明

大光院覚書

魔神山法洞修験宗信徒たりとも入峯致不可。開洞は天眞講中・朝日講中代頭及び大光院末寺二十三法印之相議に依りて行ふ者也。

一、天眞講中代頭天内千代太郎
一、朝日講中代頭木村孫四郎
一、大光院阿闍梨二十三僧
一、正中山忍海房
二、笹山明覚房
三、魔神山覚賢房
四、壼化山西念房
五、石塔山空仙房
六、飛鳥山霊明房
七、不動産龍天房
八、御成山淨光房
九、大宮山泉源房
十、大典山妙蓮房
十一、大日堂心眼房
十二、大泉寺法明房
十三、正行寺日道房
十四、實相奄日淨房（古川）
十五、觀音寺西覚房（喜良市）
十六、西光院金雲房（行丘）
十七、大光院秘密灌頂堂雲仙房
十八、大光院金剛界堂亥瑞房
十九、大光院胎藏界堂津興房
二十、大光院法藏殿念覚房
二十一、法身院法泉房
二十二、報身院淨海房
二十三、應身院義象房

以上

天正之乱下大光院日誌

記

天正十六年六月十六日
辰刻、髙楯城炎上せり。城兵二百人、阿修羅の如く死を覚悟に大浦軍に斬込みて、包陣を被り大光院に籠陣せり。大浦軍は是を追ひて大光院を包む。刻を迫る敵に最後の意を決し、朝日左衛門尉は大光院を焼かせまずと百人足らずの臣を率いて大坊野に死闘し、遂に完敗し大光院庭に虫息にしてたどり、弟樺団右衛門と共に自決せり。大浦軍は蟻群の如く大光院に迫りて、火を放つ。依て多くの寺寳を失ひり。幸哉、是を餘盛して天正十年十月、秘洞に諸佛像を移して救はれり。
天正十六年六月十七日
大浦軍は飯積残党狩り、民家多く焼く。大泉寺・正行寺のみ兵火を蒙らず、大浦軍の本営となる。
天正十六年六月十八日
髙楯残党十六人は大泉寺に斬り込みて火を放つ。大浦軍五十人を殺して去り、以来飯積村落取調べ、因て多くの無實者は夷地に流罪及び斬首に。
天正十六年六月十九日
一本木刑場に首さらし四十人。
天正十六年六月二十日
南部兵藏自から髙楯城の焼跡を検視、亦大光院に朝日氏・樺沢氏の首を検視。
天正十六年六月二十一日
正行寺、取潰し。
天正十六年六月二十二日
飯積民、刃一切持事禁令。
天正十六年六月二十三日
泉に代官所及び獄を設く。
天正十六年六月二十四日
飯積残党は魔神山に籠り天誅党を結して、代官所を夜討ちし、刃先一寸南部兵藏を討ち外し鬼洛。
天正十六年六月二十五日
大浦大挙して山狩りし、百十二人の死者を被りぬ。
天正十六年六月二十六日
天誅党は葛野御所天内宗繼殿に説得され羽州に赴く。
天正十六年六月二十七日
旧領下夷人ことごとく夷地に追放さる。
天正十六年六月二十八日
朝日氏・樺澤氏の火葬赦す。
天正十六年六月二十九日
鳴海亥之介、暗殺さる。
天正十六年六月三十日
羽州土崎郡松原輝像山補陀寺住僧覚明は朝日氏・樺澤氏の御遺骨を奉りて帰山。
天正十六年七月一日
木村重八は僧姿となりて戦場跡を巡りて殉死の髙楯軍兵御遺屍を火葬し、忍住地古川に法華奄を結びて供養し奉る。
天正十六年七月二日
朝日左衛門尉室妙の方は男児を早産するも、赤児健全にして法華神通力の實相を感じ、是を記念に法華奄を實相奄と號す。
天正十六年七月三日
飯積旧臣の討首者八十人を越ゆ。亦、北夷刻流罪者は百十三人となる。
天正十六年七月四日
飯積百姓若者は密かに白狼党を結し、大浦の地に忍び灾巡り、暗殺魔となり大浦諸重臣多く死す。
天正十六年七月五日
亦、天内宗繼は白狼党を説得し羽州に赴かしむ。
天正十六年七月六日
大浦の軍師、飯積に暗殺。
天正十六年七月七日
天内宗繼殿の仲介に依り飯積民の追罪及び領地奪取を取止めたり。
天正十六年七月八日
久しく殺伐感は消滅せり。
天正十六年七月九日
南部兵藏は大光院に參拝して供養を施す。
天正十六年七月十日
白狼党更に起こりて仲介も得られず。
天正十六年七月十一日
飯積町發起に依りて寺院再興に基く。
天正十六年七月十二日
髙楯旧臣、村興の役目附を赦さる。

天正十六年七月十三日、大光院鉄舟法印記す

長三郎再書

天眞講中芳名

朝日講中

講中掟書

  1. 言はず語らず見ず護る
  2. 身心捧皇道一宇魂性
  3. 富に威らず貧苦に憶せず
  4. 忠孝にして文武に戈ふを勤む
  5. 急せずおくれず一歩に配心

實相寺誌

誕生山實相寺は東日流奥法郡飯積髙楯主朝日左衛門尉藤原行安討死以来、室女妙の方古川に逐電し、重臣木村重八殿の護りによりて若君藤原只六丸を無事御誕生せしめたる由に相成る。戦乱中胎身の御室妙姫は朝日氏の遺言に從へて重臣木村重八に護され古川に落着し、身弱故に法華奄を結びて祈祷し、早産にして若君生存を諦むも、無事なりせば是ぞ高祖日蓮上人の法力實相に依れる證なりと華法尼として入道し、法華奄を誕生山實相寺と改め、永代の菩提寺とし、第四世日道上人は實相寺を新田地水相に建立。時は慶長五年六月十六日なり。

實相寺
開山　華法尼
開起　木村孫十郎
三世　日隆
四世　日道

以上、中野萬右衛門書簡

記追而

愢飯積古跡止筆
明治四年六月六日

飯詰庄屋作左衛門發起
長三郎再筆